はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 220 [ヒナ田舎へ行く]

ダンを見つけたらすぐにでも押し倒してやろうと意気込んで部屋を出たはずなのに、予期せずその姿を見つけて胸が躍った。もちろん手荒な真似をしようなどという考えは一瞬にして消え失せた。

スペンサーはダンが大きなポットから紅茶を注ぐ姿をじっと見つめた。軽く二,三杯は飲めるだろうか。しばらく一緒に過ごそうという意味だとしたら、いろいろ期待してしまう。ブルーノよりも自分の方が有利なのではと。

とはいえ、ブルーノがいつ戻って来るとも限らない。カップが二つしかないところをみると、ダンにその気はないだろうが、あいつはずかずかと間に割り込んでくるだろう。なにせ、約束をする仲だからな。

不機嫌の原因となった一場面を思い出し、スペンサーの胃はむかついた。

どうやら茶を飲む前にはっきりさせておく必要がありそうだ。

「ブルーノといったい何の約束をしたんだ?」遠回しなことは言わなかった。ほんのわずかな躊躇いが、後々大きな痛手となる。

「約束?なんの――ああ、あれですか!」

「そう、あれだ」スペンサーは憮然とダンの言葉を繰り返した。もったいつけずにさっさと白状しろ。

「ケーキを頂いたんです。ヒナが美味しかったっていうものですから、僕も食べたいとお願いしたんです」ダンは気恥ずかしげに肩を竦めた。

「ケーキくらい、お願いしなくても食べたらいいだろう?」とにかく、たいした約束ではなくてホッとした。

「新作なんですって。まだ試作の段階だからこっそり頂いたんです。みんなには内緒ですよ」

秘密の共有を持ちかけられて、ノーとは言えない。

「どうせヒナが喋るだろうに」

ダンは笑顔で首を振った。「ヒナはああ見えて口は堅いんですよ。それに美味しいものは独り占めにしたいタイプですからね」

前者には疑いを持ったが、後者は納得できる。一人っ子というのは他人と分け合うことに慣れていない。そういえば、ヒナは一人っ子だったのだろうか?兄弟の話がまるで出ないので勝手にそう決めつけていたが。

「ヒナに兄弟はいないのか?」スペンサーは訊ねて、ダンが入れてくれた紅茶に口を付けた。少し甘めの香りと深い渋み。眠気覚ましにはちょうどいい。ダンと一緒なら昼寝も悪くはないが。

「ええ、そう聞いています。両親とおじいちゃんと暮らしていたと。親戚も近くに住んでいたようですけど、詳しいことまでは知りません」

スペンサーはヒナの境遇を思って胸を痛めた。

祖父はすでに亡くなっていて、母親も事故で亡くした。父親は仕事が忙しくヒナを他人に預けっぱなし。ヒナは故郷が恋しくないのだろうか?

例えそうだとしても、誰に訴えるというのだ。ダンに?それともヒナを預かっているダンの雇い主にか?

まあ、いい。いまはヒナのことよりも、ダンのことが知りたい。

ただ、具体的に何を訊いたらいいのかさっぱりわからない。いまの仕事に就いてからの話はいろいろしてくれたが、それ以前となると途端に口が重くなる。特に過去が知りたいわけではないが、名前ぐらい教えてくれたっていいだろうに。

けれどもダンは、名前を聞き出そうとすると機嫌が悪くなる。むやみに機嫌を損ねて、こうやって一緒に過ごせなくなるのも考えものだ。

さて、ダンをどうやって攻略しようか。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 221 [ヒナ田舎へ行く]

ダンの休憩時間は思いの外早く終了することとなった。

「ダーン!ダーンッ!」と、ヒナの叫び声が玄関広間から聞こえてきたためだ。

ちょうどカップに口をつけていたダンは、ごほごほとむせ返った。いったい何事かと見開いた目をスペンサーと合わせる。

「呼んでいるな」スペンサーは落ち着き払って、玄関の方に向かって顔を振った。

「そのようです」ダンは話途中で部屋から飛びだした。ヒナがあんなふうに切羽詰まった声で僕を呼ぶのは初めてだ。いったいなにが起こったというのだろう。

ヒナは旦那様と一緒にいたはずなのに、という疑問はすぐに解消された。

玄関には旦那様もいた。泥だらけのヒナの後ろに立って、苦笑いを浮かべている。

「ヒナ、いったいどうしたんです!」ダンはヒナの悲惨な姿にゾッとした声を漏らした。シャツもベストもズボンも泥だらけだ。泥汚れは落とすのがすごく大変だっていうのに。

「なかに入っちゃダメだって、ジュスが。じゅうたんが汚れるから先にダンを呼びなさいって」ヒナは棒立ちのままダンに訴えかけた。

絨毯!確かにそうだけど、だからってここでどうしろって?脱ぐつもり?

「こけたんだ。手を伸ばしたが間に合わなかった。悪いな、ダン」

「いいえ、旦那様――――ウォーターズ様、お気になさらずに」背後にスペンサーの気配を感じて慌てて言い直した。ヒナにも『ジュス』と呼ばないように目配せをする。

ヒナはスペンサーの姿を見て、ひゅっと息を吸った。

「派手にやったな」スペンサーがだから言っただろうとばかりに言う。ヒナが外に出たいと言った時、真っ先に反対したのがスペンサーだ。

「すみません」ダンは謝った。

「申し訳ない」旦那様まで謝った。

「ごめんなさい」当然ヒナも。

「すぐに風呂の支度をさせよう」スペンサーは屋敷のあるじ然として言い、使える人間を探して顔を巡らせた。「カイルはどこへいった?」

「ウェインと厩舎に行っていると思います」ダンは答えた。ちなみにブルーノは物置小屋。

「ではわたしが呼んでこよう」旦那様はヒナの頭に軽く触れると、玄関から外に出た。

客である旦那様が真っ先に動くなんておかしい気がしたけれど、スペンサーは特に何も言わなかった。

「ともかく、ベストは脱ぎましょうか」ダンはヒナの傍に寄って、ベストのボタンに手を掛けた。はたして、屋敷の中を汚さずにお風呂場まで行く道はあるのだろうか。

「全部脱ぐ」ヒナがもどかしげに言う。

「ダメッ!」ダンはぴしゃりと言い、振り返ってスペンサーに助けを求めた。このままではヒナは玄関ですっぽんぽんになってしまう。そんな事になったら、僕は旦那様に殺されてしまう!

「裏口から入って、まっすぐ行かずに横の階段を降りれば風呂場だ」スペンサーはこの状況を面白がっているようで、笑いながら言うと、奥へと引っ込んでしまった。居間に戻ってティータイムの続きをする気だ。

「では、行きますよ」ダンは恨み言のひとつでも言いたい気持ちを抑え、ヒナを連れて外へと出た。

暇だなんて思ったのが嘘みたいだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 222 [ヒナ田舎へ行く]


「いったい何をしていたらこんなことになるんでしょうね?」

ダンの声が聞こえた。非難めいた口調だ。どうやら相手はヒナのようだ。

「なにもしてないもん」

ヒナはむくれている。非難される覚えはないというわけか。

「どうせ、だん――」

ブルーノは物陰から二人の前に姿を現した。物陰といっても、潜んでいたわけではない。たまたまひと仕事済ませて、そのついでに洗濯物を取り込もうと思っただけだ。

それなのにダンときたら、驚いてギャッと悲鳴を上げてすっころんだ。

「そんなに驚くことはないだろう」理不尽な気がして、思わず強い口調で責めた。

「こけた」ヒナがダンの横で胸を張って言う。

ブルーノはダンに向かって手を伸ばした。「ヒナもこけたのか?」ひどい有様のヒナをちらりと見る。いったいどうなっているんだ?揃いも揃って。

「すみません」ダンは言いながらしっかりと手を取った。

スペンサーはダンの手を握って、軽々と引き上げた。ダンの身体つきはある程度把握しているが、手を握るのは初めてだった。小さくてやわらかい、子供のような手だ。ただ力はそこそこあるようだ。

「どこへ行くんだ?」なんとなく想像はついたが、一応訊ねた。手はまだ握ったままだ。

「裏からお風呂場に」ダンは見ての通りですというように、目の端でヒナを捉えた。

「じゅうたんが汚れるから」とヒナ。ダンを離さないブルーノを凝視している。

ブルーノは何食わぬ顔で言った。「別にそのくらいなら気にすることもないだろうに」

「いえ、そういう訳には……」ダンは自分の手を見下ろした。

「まあ、わざわざ仕事を増やすこともないか」ブルーノはダンの手を引いた。「ぬるま湯でいいならシャワーはすぐに浴びれるぞ」もう片方の手をヒナに差し出した。ダンを離さないためには仕方がない。

ヒナは嬉々としてブルーノの手を取った。「しゃわーあびる」

協力的なヒナのおかげで、手つなぎは裏口のドアまで続いた。ダンは照れたように俯きブルーノの半歩後ろを進み、ヒナはスキップしながら半歩先を行った。

ヒナを風呂場に送り込むと、せっせと湯を沸かすカイルに合流した。

「ねぇ、ブルーノ。ウェインさんが待ってるから行ってもいい?」カイルはもどかしげに足を踏み鳴らした。

客がまだ帰っていなかったことに驚いた。ウェインを客と言うならだが。「あとはやるから行っていいぞ。ウェインがいるという事はウォーターズもいるんだよな」念のため確かめる。

「ヒナが綺麗になるまで待ってるって。スペンサーがお酒をすすめてたよ」

「酒だと?」おいおい。いったいいつまでいるつもりだ?たかが隣人が長居し過ぎだ。

「うん。だからウェインさんにも何か持って行ってあげようかなって」カイルは最後まで言い終わらないうちに邸内へと戻って行った。

やれやれ。ヒナが来てからというもの、落ち着く暇もない。けれどもそんなヒナのおかげで、ダンとの距離も徐々に縮まっている。

もうあとひと押しふた押しというところまできているのではないかと期待もするが、そう甘くない事は重々承知している。

ダンはこちらの気持ちなど気にも留めていないし、邪魔者もいまだに排除できていないからだ。

そろそろ次の手を考えるべきだろうな。

ブルーノはダンの手の感触の残る右手にそっと唇を押し当てた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 223 [ヒナ田舎へ行く]

ちょっと早めの入浴を済ませたヒナは、ジャスティンと同じ石鹸の香りをさせながら無事居間に舞い戻った。

大役を終えたダンは、夕食までの束の間、部屋で休む事にした。手伝いがいれば、ブルーノかカイルが呼びに来るだろう。

上着を脱いで椅子の背に掛けると、ズボンが皺になるのもかまわずベッドに横になった。

気を遣い過ぎたからか、どっと疲れが押し寄せてきた。目を閉じて、軽く息を吐く。

僕もうっかりしていたけど、問題はヒナ。ヒナは二度も旦那様をジュスと呼んだ。もし誰かに聞かれでもしたら……。

はたして、聞かれたらいったいどうなるというのだろう?

ヒューバートは知っているわけだし、こちらだって自ら進んで正体を明かしたわけではない。それでも伯爵にとっては同じことなのだろうか?

もしそうならスペンサーに――ブルーノでも誰でもいい、ヒナの両親の元へ案内してもらえばいい。ラドフォード家の墓の場所さえ分かればこっちで勝手に行くさ。

ダンは目を開けた。

薄曇りの空のような瞳がこちらを見下ろしていた。

「わぁッ!」

ダンは大声を上げて、飛び起きた。あやうく額と額をぶつけそうになる。スペンサーがぎりぎりのところで避けてくれなければ、傷をもうひとつ増やしていただろう。

「うわッ、あぶないだろう!」

スペンサーの言い分はもっとも。でも、勝手に部屋に入ってくる方が悪い。しかもこんな至近距離。

「ここで何をしているんですか!」不必要に驚いた気がして恥ずかしさが込み上げてきた。

「何って、様子を見に来ちゃ悪いか?」スペンサーは悪びれる様子もない。

「だって、ウォーターズさんはどうしたんですか?」旦那様はヒナのお客様なのでスペンサーが相手をすることもないのだけれど、それでも客を放っておくなんて……。

「帰ったぞ」

「帰った?」もう?

「ああ、明日また来ると言い残してな。ったく、こう毎日来られたらたまったもんじゃない。そう思わないか?」スペンサーはそう言って、ベッドの端に座った。片手を着き、重心を傾げ、こちらに迫ってくる。

どうしよう!

「ヒナが喜ぶので」ダンは息も絶え絶えに言った。背中にぴったりヘッドボードがついているので、後ろには引けない。

スペンサーの顔が近い。もしかして、何かされる?

何かって、ヒナが聞いたら喜びそうなあれしか思い浮かばないけど。

「ブルーノと手をつないだそうだな」スペンサーが不満もあらわに、強い口調で言った。

「ぅぐっ」ダンは呻くしか出来なかった。

ヒナ~!また余計なことを!!

つづく


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ヒナ田舎へ行く 224 [ヒナ田舎へ行く]

『ブルゥの味方』と宣言していたヒナが、いつからか中立の立場に立ってくれたおかげで、ブルーノの愚行が逐一耳に入るようになった。

もちろんヒナに告げ口する意図はない。ただ両者を煽って楽しんでいるだけだ。だから一層性質が悪い。

「そうではなくて、こけたときに手を差し伸べてくれただけです」ダンがもっともらしい言い訳を口にした。ヒナの言っていたこととずいぶん違う。

「それだけか?」問い詰めてどうなるってもんでもない。だが、このまま有耶無耶にしておけば、必ずこちらの不利になる。情やその場の勢いに流され、ダンがブルーノになびかないとも限らない。

いい加減、ダンを巡って兄弟で争うのは終いにしたい。水面下での微妙なやり取りが表面化すれば、事はややこしくなるばかりだ。親父がここにいるとなればなおさら。だからこそ親父が不在のうちに、どちらかが権利を獲得しておく必要がある。もちろん負けた方は身を引く。が、ブルーノがそれに納得するかどうか。なぜならば、権利を獲得するのは俺だからだ。

お互い、トビーの時のようにダンを共有する気はない。と言っても、トビーにはこちらが手玉に取られていただけなのだが。

「いいえ……」ダンは渋々認めた。「なぜかヒナも加わって裏口までそのまま……」

そのまま手を握られていたというわけか。

「嫌なら嫌と言うべきだ」無駄だとわかっていても、口にせずにはいられなかった。ダンの性分としてそんなこと言えるはずがない。

「別に、手くらい……ヒナも楽しそうでしたし」

やっぱり!否定的な意見を望んでいた訳ではないけれど、こうもあっさり手を握られるくらいなんでもないと言われると、腹立たしさが一気に込み上げてきた。

「ヒナがよければそれでいいのか?」無論そうだろう。分かっていても問いたださずにはいられなかった。

「別にそういうわけじゃありませんけど」ダンは不貞腐れたように言い、まるでキスを拒むように、ぷいっとそっぽを向いた。

くそ生意気な!

スペンサーはダンの逃げ道を塞ぐように、右手をヘッドボードに叩きつけた。ダンが左側に顔を背ける。

「ブルーノの事が好きなのか?」この問いに答えは必要なかった。ダンがブルーノを選ぶつもりなら、いまここでその口を塞いでやる。

そう。ほんの数分前にしようとしていたことを実行するだけだ。

騒ごうが暴れようが、やめるつもりはない。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 225 [ヒナ田舎へ行く]

ち、近い。

咄嗟に顔を背けたものの、頬に息がかかっている。

もうこれは間違いなく、ヒナの思惑通り、キスされちゃうに違いない。

そんなの困る!

僕はキスなんてしたことないんだから。

「ちょっと、落ち着いてください」ダンは精一杯腕を突き出した。が、スペンサーはびくともしなかった。そもそも体格差、力の差がありすぎる。逆に手首を掴まれ抱き寄せられてしまった。僕の馬鹿!

「俺は落ち着いているぞ」スペンサーが澄まし顔で言う。ヒナがいたずらを咎められたときに見せる顔と、よく似ている。

「ブルーノがどうとか、どうして気にするんです?」僕にかまわないで。僕はヒナのおまけで、スペンサーやブルーノに言い寄られるほどの魅力なんてないんだから。

そうだよ。情けないけど、認めるしかない。役者になりたくて田舎から街へ出たけど、全く相手にされなかった。それもこれも自分には何の魅力もないからだ。キス?練習なら何度もした。もちろん女優さんを相手にしていると想像して。枕の中の藁が唇に刺さって痛かった。だからキスなんてしたくない。

「ブルーノのことなどどうでもいい。ダンの気持ちが知りたいだけだ」

「僕の気持ち?知ってどうするんです?」ダンは悲鳴のような声を上げた。はっきり好きだとかキスしたいだとか言われたわけでもないのに、ヒナが勝手に盛り上がって、僕もその気になって、それがすべて勘違いだったらどうするっての?何もわからないのに、自分の気持ちなんてわかるはずがない。

「どうしようか?」スペンサーは不気味に笑った。

「そういうのやめてください」はっきりしない態度はもうたくさんだ(はっきりされても困るけど)。そのくせ勝手に部屋に入って来たり、ブルーノとの事で僕を責めたり、何の権利があって――

「怒ったのか?」スペンサーが掴んだ手首を口元に持っていく。

「いいえ」怒っても虚しいだけ。「ぁっ……」手首にキスされた。次はきっと唇だ。ヒナ、助けて。僕はキスなんてしたくないんだ!

つづく


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ヒナ田舎へ行く 226 [ヒナ田舎へ行く]

ダンがほとんど無抵抗なのは、単にスペンサーが怖いからと、お情けでここに置いてもらっているという負い目があるからに他ならない。

ぷらぷらと部屋に戻ってきたヒナは、ダンの部屋に続くドアに目を向けた。

開いている。

ヒナはそろりそろりとドアに近づいた。向こうを覗くと、ベッドに大きな塊が見えた。

ダンとスペンサーだ。

とうとうダンはスペンサーに決めたのだと、ヒナは思った。

しかしスペンサーの肩のあたりからひょっこりのぞいたダンの顔は、ちっとも嬉しそうではなかった。むしろ嫌がっているか、怯えているように見えた。

その時、ダンと目が合った。ダンの目は大きく見開き、ヒナに助けを求めた。

ヒナは一瞬迷った。スペンサーにブルゥのことを言ってしまったから、ダンは襲われているのだ。お喋りだって、あとできっとダンに怒られちゃう。でも、助けなきゃ。

ヒナはずかずかとダンの部屋に侵入し、背後から二人に声を掛けた。

「なにしてるの?」

「ああ、ヒナ。何もしていませんよ」ダンは息も絶え絶えに言った。助かったとばかりに、ほぅと長い息を吐く。

一方のスペンサーはぎょっとした顔でヒナを見て、バッタのようにぴょんと飛んでベッドからおりた。言い訳を考えているのか、口がもにょもにょと動いている。

おかしくて笑いそうになった。でも我慢した。「ブルゥがお手伝い欲しいって言ってたよ」ヒナは嘘を吐いた。

「ええ、ではすぐに行きましょう」とダンは言ったが、腰が抜けているのかまったく動けない。もしかしてスペンサーはもう、キスしちゃった?ヒナもジュスに初めてキスしてもらったとき、同じように動けなかった。

「あ、そうだ。ヒューが帰ってきてたよ」ヒナはスペンサーを追い払おうと言った。ちなみにこれは本当。ヒューはおみやげをいっぱい持って帰ってきていた。晩餐のあとが楽しみ。

「そうか?じゃあ、ちょっと顔を出すかな」スペンサーは何事もなかったかのように、ふらりと部屋を出て行った。

ヒナは怒られるのを覚悟した。余計なことをしてしまったのは見ての通りで、ダンを怖い目に遭わせてしまった。ダンはスペンサーと仲良くしているので(ブルーノともしているけど)てっきり……と思ったのが間違いだったのだ。

「ヒナ、もっと早く来てくださいよ!」ダンは涙声で言うと、何とか起き上がって、ベッドの端に座った。

「ごめんなさい」ヒナは珍しくしゅんとし、反省を込めて頭を下げた。

「ほんとですよ。ブルーノのことを言ったんでしょう?手をつないだこと」ダンはヒナを咎めるような言葉を口にしたが、怒ってはいなかった。

「二人に平等にチャンスをあげたかったから。でも、ダンはスペンサーのこと好きじゃないんでしょ?」

「いいえ、好きですよ。スペンサーもブルーノも、カイルも。みんな好きです」

ヒナはそういう意味じゃないのになと思ったけど、それ以上は何も言わなかった。ダンがスペンサーとブルーノの間をふらふらしているのは、どちらも魅力的だから仕方がないのだと自分に言い聞かせた。

どっちもヒナの好みではないけれど。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 227 [ヒナ田舎へ行く]

一切合切ヒナのせいにしてしまうほど、ダンは無責任な男ではない。

スペンサーにあのような行いを許してしまった一端は、自分自身にあるのだ。ヒナが余計なことを言わなければという考えも捨てきれなかったけど、ヒナはああいう子なので仕方がない。つまり、他人のことに首を突っ込まずにはいられないってこと。

ヒナが来なければどうなっていたのだろうかと、ズボンの皺を伸ばしながら考えた。

スペンサーは間違いなくキスをしただろうか?

するとしたらどんなふうに?優しく?それともちょっと荒っぽく?ヒナと旦那様がするように、ちゅっちゅと音を立てただろうか?

してみてもよかったかもしれない。何事も経験だし、今後、万が一にも役者にならないとも限らない。そうしたらこのときの経験が役に立ったことだろう。

どうしてさっきはあんなにも嫌だと思ったのか不思議だ。きっと突然だったからだ。ブルーノにどう思われるかなんて気にしていなかったと思う。

なんでいま急にブルーノ?ブルーノは関係ないのに。

いや、関係ないこともない。ブルーノが手を繋いだりするから、結果こういうことに。でもその原因は、僕がこけたりしたから。あんなにビクビクして馬鹿みたいだ。ヒナと旦那様の関係がばれたっていいじゃないか。

秘密なんてもううんざりだ!

とはいえ、僕の役目はヒナのお世話をすることで、秘密を漏らすことではない。

ダンはやっと冷静さを取り戻し、鏡の前で身だしなみを整えると、上着を羽織って部屋を出た。

ヒナは「ゴハンマデヤスム」という奇妙な言葉を残して、自分の部屋に引き上げていった。ブルーノが呼んでいるというのは嘘だと言っていたけど、手が空いているときは手伝う約束になっている。せっかく今日はさぼってしまおうと思っていたのに、そんな事を考えたばかりにスペンサーに――

ああ!そうだった!

手首にキスされたんだった。柔らかくてちょっと湿っていて、背中がぞわりとした。あれって興奮したって事かな?

だとしたら、スペンサーに言い寄られてまんざらでもなかったって事?

まさかね。

僕はヒナや旦那様、クラブの人達とは違うんだから。

ダンは妙な考えを振り払うように頭をぶんぶんと振って、キッチンへと急いだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 228 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナの登場になす術なく退散したスペンサーは、途中ブルーノと行き合った。

ダンを見なかったかと訊かれたが、見なかったと答えた。手伝いが欲しいのか何なのかは知らないが、いちいちダンの居所を把握していないと気が済まないらしい。

まったく。お互いダンに振り回されてばかりだ。

スペンサーは後悔のあまり、頭を掻きむしった。絶対的なチャンスをふいにしてしまったのだ、後悔どころではない。

それもこれも、ヒナが邪魔をしたからだ。あれだけ煽っておきながら、ここぞいうときに邪魔をするのだから、まったくもって信じられない。

遊んでいないでさっさとやってしまえばよかった。キスでも何でも。ダンの反応がいちいち新鮮で、からかわずにはいられなかった。

これで、ダンは警戒を強めただろう。キスどころか普通に会話すら出来ないかもしれない。唯一の救いは、完全に拒絶されていないことくらいだろう。

スペンサーは書斎に戻った。ヒューバートがいるかと思ったが、いなかったので残っている仕事を片付ける事にした。いまは村の婦人会主催のバザーの目録を作成中だ。そうたいした仕事でもない。

けれども、たいした仕事ではないはずの仕事はまったくはかどらなかった。

スペンサーはとうとう匙を(ペンを)投げ、机から離れた。部屋を落ち着きなくうろつき、今後どうすべきかを考える。ヒナはあてにならないし、強硬策も無理。となれば、何か物で釣るか?それとも弱点をついて脅すか?

ダメだダメだ。それでは卑怯者と呼ばれるだけで、到底ダンを得られやしない。ダンはああ見えて頑固だ。だからこそここにいるわけだが、ヒナも頑固だし、都会もんは一般的に融通が利かないのか?こっちは一歩も二歩も譲っているというのに。まったく恩知らずなガキどもだ。

では恩知らずなガキに思い知らせるにはどうすればいい?痛い目に遭わせるか?

うむ。それがいい。

その役目は、そうだな。ブルーノにやってもらうか。

あいつが嫌われれば言うことなしだからな。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 229 [ヒナ田舎へ行く]

一日の終わりに、ヒューバートがみんなを集めた。

おみやげ目当てのヒナはうきうきで居間に一番乗り。スペンサーのお気に入りの椅子を占領して、調子っぱずれの鼻歌を歌っていた。

しばらくしてカイルがダンのいれたココアを手にやってきた。こちらも上機嫌で足取りは軽やかだった。ヒナのすぐ傍に座ると、そわそわとポットに目を向けた。

銀のポットは大きくて重たくて熱いので、注ぐのはダンを待ってからにした方がいい。火傷したら大変だ。

次にスペンサーがやってきた。不機嫌そうに口元を歪め、ヒナを見て眉間に深い皺を刻んだ。そこは俺の場所だというアピールだ。

ヒナは唇をすぼめて、ぷいとそっぽを向いた。

スペンサーは無駄な抗議は諦めて、ヒナからうんと離れた場所に座ると、腕組みをして目を閉じた。ヒナを見ていると、ダンの部屋でのことを思い出すのだろう。特に、邪魔をされた瞬間を。

それからブルーノとダンが揃ってやってきた。スペンサーは片目を開けて二人の様子を確認した。ヒナはブルーノとダンの様子をまじまじと観察した。スペンサーを拒絶したダンが、こうやってブルーノと一緒にいるということに何か意味があるのだろうかと。

「ダン、ココア飲んでいい?」カイルが待ちきれないとばかりに、ダンに訊ねた。

「ええ、もちろんです」ダンはポットに手を伸ばそうとするカイルを制して、テーブルの前に跪いた。カップを人数分並べて、まずはヒナのカップを満たした。

ブルーノはあくびを噛み殺しながら窓際のソファに腰を落ち着けると、ダンが子供たちの間でにこにことする姿を眺めた。

ココアがヒューバートを除く全員のカップに行き渡ると、ダンはぎこちない動きで、スペンサーの元にカップを運んだ。囁くように声を掛けると、スペンサーは無言でそれを受け取り、すぐわきのティーテーブルに置いた。

それを見て、ブルーノはおや?というように目を細めた。二人が仲違いしているように見える。だとしたらこれほど嬉しい事はない。と思っているに違いないと、ヒナは断定した。

まもなくしてヒューバートが居間に入ってくると、ヒナは観察をやめて椅子からぽんと飛び降りた。餌をねだる子猫のようにヒューバートに駆け寄る。

「ヒュー、なに持ってるの?」ヒナはつま先立ってヒューバートの手の中を見た。

「これはカナデ様への贈り物でございます。気に入っていただけたらいいのですが」ヒューバートはにこりとし、包みのひとつをヒナに手渡した。「それから、ブルーノ。お前宛ての手紙だ」

「手紙?今日は郵便は来なかったはずですが?」ブルーノは苛立ったように言うと、窓際から素早く移動し、手紙をひったくった。

「キャリーの店に寄った時についでに頼まれたものだ」

キャリーの店は郵便屋も兼ねている。

「ヒナには?」ヒナがもう一度ヒューバートに擦り寄る。そろそろアダムス先生から返事が来てもいい頃だ。

「カナデ様宛てには来ておりませんでした」ヒューバートは答えると、スペンサーにも手紙を差し出した。

ヒナはがっかりしながら元の場所に戻った。

それにしてもいったい、ヒューはどうしてみんなを集めたのだろうかと、ヒナは首を傾げた。

つづく


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